研究紹介

エネルギーデバイス班

現在、リチウムイオン二次電池(LIB)は、携帯電話や小型電子端末の電源として幅広く使用されています。近年では、電気自動車やドローンの需要が高まり、エネルギー密度について現行のLIBを上回る性能を発揮する次世代二次電池の開発が求められています。そこで、当研究室では、LIBへのリチウム金属負極や硫黄正極の適用や、新たなキャリアを使用した二次電池に関する研究を行っています。

バイオセンシング班

疾患の早期発見やヘルスケアデータ取得への貢献を目的に、生体関連分子の定量的な検出に向けた電気化学センサの開発を行っています。電気化学センサとは、分子の吸着、酸化還元反応、酵素反応などを認識し、電気的信号に変換するデバイスです。当研究室は電気化学センサの中でも、電界効果トランジスタ(Field-effect transistor: FET)バイオセンサ、アンペロメトリックセンサに関する研究を行っています。

エネルギーデバイス班

リチウムイオン電池の負極活物質として使用されているグラファイトに替わる新たな負極の材料のひとつとして、Li金属が期待されています。リチウム金属は高い理論容量(3860 mAh g-1)と低い酸化還元電位(-3.04 V vs. SHE.)を有しています。しかし、リチウム金属負極は安全性およびサイクル不安定性の観点から、二次電池の負極として現在利用されていません。この原因として、リチウムデンドライトの析出・溶出が挙げられます。充電時にリチウム金属負極表面において、デンドライト状のリチウムが析出することによって、正極側との内部短絡を引き起こします。また、デンドライト状のリチウムの一部が溶出することで、デッドリチウムが生成し、不可逆的な容量に伴うクーロン効率の低下が引き起こされます。このように、デンドライトの成長は電池性能として深刻な問題を引き起こすため、その成長抑制の検討がリチウム金属負極の実用には必要となります。そこで本研究室では、リチウムデンドライトの課題を解決するため、いくつかの研究を進めています。 初めに、リチウム金属の高い反応性から、その表面に電解液との反応によってSolid Electrolyte Interphase (SEI)という被膜が生じます。SEI組成がリチウムの析出形態に影響を与えることが既に報告されており[1]、SEI組成を制御することがリチウム金属表面の安定化につながります。そこで当研究室では、人工SEIとしてリチウム金属負極上にポリマー膜をコーティングすることで、リチウム金属負極の長寿命化を目指しています。ポリマー膜によるリチウムイオン流束の均一化と電解液とリチウムの反応を抑制する効果から、リチウム金属負極の長寿命化を目指しています。現在、ポリマー膜の形成条件探索やポリマー膜の被覆によるリチウム金属負極の長期的な充放電安定性の比較を進めています。

図1 (a) リチウム金属負極表面 (b)ポリマー膜適用時のリチウム金属負極表面

また、リチウムデンドライトの形成機構を解明することは、電池劣化状態の診断やリチウム金属負極界面の設計に繋がります。しかし、反応性の高いリチウム金属負極の動作機構の解析は、動作後の電池を分解した分析や,実際の動作系とは異なる特殊なセルが必要となる測定が主流となっています。そこで当研究室では交流インピーダンス法を用いた実用セルでの充放電試験中の動作解析も行っています。微小の交流信号を実用セルに印加し,各周波数におけるインピーダンスを分析する手法です。交流信号を用いることで、充放電反応を素過程に分離することが可能となるためリチウム金属負極の状態を非破壊で分析することを目指しています。加えて、リチウムデンドライトの成長過程のシミュレーションも行っています。温度や圧力、初期のリチウム金属表面の形状などの物理学的パラメータを変更して、デンドライトの成長課程をシミュレーションすることが可能であるため、リチウムのデンドライト成長に影響を与えるパラメータの判別に繋がり、リチウム金属負極のデンドライト形成対策の指針を得ることが期待されます。 さらに、新たなリチウムイオン電池の負極材料の設計も検討しています。リチウムとの合金化反応で容量を示す層状化合物は、充放電を繰り返すごとに、隣接する層と合体することで粒径が大きくなり、容量が低下することが懸念されます。そこで、合金化反応をする層状化合物の層間に非反応層を挿入することでサイクル経過後も層状構造を維持し、サイクル特性を向上させることを目指しています。また、非反応層の電気化学的な物性にも着目し、レート特性の向上のために電子伝導パスを確保することなども検討しています。
    参考文献
  1. D. Lin, Y. Liu and Y. Cui, “Reviving the lithium metal anode for high-energy batteries”, J. Nature Nanotech., 2017, 12, 194-206.
現在広く用いられているリチウムイオン二次電池の容量は,グラファイト負極の理論容量(372 mAh g1)に達しつつあります.そこで高理論容量(1672 mAh g1)を示す硫黄を正極に用いるリチウム硫黄二次電池が注目を集めています。しかし、電解液へと溶出した反応中間体のリチウムポリスルフィド(Li2Sn, 4≦n≦8)が、正極と負極の間を拡散により往復し,正極上での酸化反応と負極上での還元反応が繰り返されるという問題があります(図1)。これはシャトル効果と呼ばれ,過充電の原因となります。また硫黄や放電生成物のLi2Sが低電子伝導性および低イオン伝導性を示すことから、充放電時に高い過電圧がかかるという問題もあります。当研究室ではこれらの問題を解決すべく研究を行っています。

図1 シャトル効果の模式図

まず、リチウムポリスルフィドの溶出を防ぐ手法として、正極表面を負に帯電したポリマーでコーティングするという検討がなされていました(図2(a))[1]。このコーティングによりポリスルフィドアニオン(Sn2)が静電反発により正極上に留まります。その結果,コーティングなしの場合(図2(b))と比較して,架橋ポリマーコーティングを施した場合(図2(d))は過充電が抑制されました。

図2 (a)正極ポリマーコーティングの概要 (b)-(d)正極の模式図と充放電曲線

(b)コーティングなし (c)線状ポリマーコーティング (d)架橋ポリマーコーティング[1]

次に、過電圧を抑制する手法として,電解液へのレドックスメディエーター(RM)の導入が検討されています。通常の充電過程では絶縁性のLi2Sが正極表面上のみで電気化学的に酸化されるため,充電過電圧が大きくなります。一方RMを導入することで、RMが電気化学的に酸化された後にLi2Sを化学的に酸化するという機構に変化し、充電過電圧が抑制されます。現在当研究室では新規RMの探索を行っています。
    参考文献
  1. N. Nakamura, H. Mikuriya, E. Kojima, S. Ahn, K. Yamabuki, T. Momma, and T. Osaka, “Communication—Cross-Linked Anionic Polymer Coating Prepared by UV and Thermal Curing for Long-Life Lithium-Sulfur Battery”, J. Electrochem. Soc., 2021, 168, 110552.

バイオセンシングデバイス

FETバイオセンサとは、荷電した標的分子の吸着によるゲート絶縁膜表面の電位変化を電界効果によるキャリア濃度の変化として検出するセンサです。半導体加工技術による通信回路等との集積化や、マルチチャネル化による複数の対象の同時測定、小型化が期待されます[1]。また、大量生産によるコストダウンも見込まれます[1]。当研究室はこれまで、 FETバイオセンサを用いた生体分子検出に取り組んできました。具体的には、抗体あるいは抗原結合性フラグメントをプローブとした腫瘍マーカーの検出や抗原を固定化した系での免疫グロブリンEの高感度検出、アルツハイマー病の早期発見に向けたコンゴーレッド固定化FET によるアミロイドβの検出、糖鎖固定化FET によるインフルエンザウイルスの検出などが挙げられます[2][3][4][5][6]。最近では、等温核酸増幅法を利用したRNAの高感度検出や、競合法を利用した抗がん剤5-Fluorouracilの検出を実現しました[7][8]。現在は、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの高感度検出や、センサ応答の再現性向上に向けた測定システムの構築に取り組んでいます。

図1 FETバイオセンサの検出概要図

    参考文献
  1. 黒岩繁樹, 大橋啓之, 逢坂哲彌, "4. 電界効果トランジスタを用いたイオセンサの展開", 電気化学, 2020, 88, 317-325.
  2. S. Hideshima, R. Sato, S. Kuroiwa and T. Osaka, "Fabrication of stable antibody-modified field effect transistors using electrical activation of Schiff base cross-linkages for tumor marker detection", Biosens. Bioelectron., 2011, 26, 2419-2425.
  3. S. Hideshima, M. Kobayashi, T. Wada, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, N. Sawamura, T. Asahi, T. Osaka, "A Label-Free Electrical Assay of Fibrous Amyloid β Based on Semiconductor Biosensing", Chem. Commun., 2014, 50, 3476-3479.
  4.  S. Cheng, K. Hotani, S. Hideshima, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, M. Hashimoto, Y. Mori, T. Osaka, "Field effect transistor biosensor using antigen binding fragment for detecting tumor marker in human serum", Materials, 2014, 7, 2490-2500.
  5. S. Hideshima, H. Hayashi, H. Hinou, S. Nambuya, S. Kuroiwa, T. Nakanishi, T. Momma, S.Nishimura, Y. Sakoda and T. Osaka, "Glycan-immobilized dual-channel field effect transistor biosensor for the rapid identification of pandemic influenza viral particles”, Sci. Rep.,2019, 9, 11616.
  6. S. Hideshima, S. Kuroiwa, M. Kimura, S. Cheng, T. Osaka, " Effect of the size of receptor in allergy detection using field effect transistor biosensor", Electrochimica Acta,2013, 110, 146-151.
  7. H. Hayashi, M. Fujita, S. Kuroiwa, K. Ohashi, M. Okada, F. Shibasaki, T. Osaka, T. Momma, “Semiconductor-based biosensor exploiting competitive adsorption with charged pseudo-target molecules for monitoring 5-fluorouracil concentration in human serum”, Sens. Actuators, 2023, 395,134495.
  8. H. Hayashi, A. Enami, H. Fujita, S. Kuroiwa, K. Ohashi, M. Kuwahara, T. Osaka, T. Momma, ”Field-effect transistor biosensor with signal amplification by ternary initiation complexes for detection of wide-range RNA concentration”, Talanta, 2024, 273, 125846.
アンペロメトリックセンサとは、定電位における電極と酸化還元種間の電子の授受を電流値として測定するセンサです。 標的分子の濃度に依存した酸化還元反応に由来する電流値の変化を利用して、標的分子の検出を可能とします。利点としては、特定の電位印加により、目的の酸化還元反応のみを起こすことが可能であり、夾雑物の影響を受けにくいことが挙げられます。現在は、RNAの高感度検出に向け、等温核酸増幅法の適用に焦点を当て、アンペロメトリックセンサの作製に取り組んでいます。核酸増幅法の適用により、酸化還元反応量の増加に伴い、電流値変化量が増加することが期待されます。